2021年9月2日木曜日

(2445) ル・ボン『群衆心理』(1-1) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】学術書としては荒削りなところもあるといわれますが、その洞察の深さ、ある対象に毒をたっぷり含んだ舌鋒を向ける鋭さは、現代の私たちが読んでも相当なインパクトがあります。口の悪さが、面白い


第1回  6日放送/ 8日再放送

  タイトル: 群衆心理のメカニズム

 

【テキストの項目】

(1) 群衆の時代

(2) 異色の心理学者が目撃した「群衆」

(3) 群衆は黴菌(バイキン)のように作用する

(4) あなたの身近に現れる群衆

 

(5) なぜ理性は易々と消え失せるのか

(6) 衝動的で興奮しやすい自動人形

(7) 単純さを好み、偏狭で横暴な群衆

(8) 群衆は本能的に隷属する

(9) 人間の合理性は、実はとても頼りない

 

【展開】

(1) 群衆の時代

 群衆は、歴史上常に重要な役割を演じてきたが、この役割が今日ほど顕著なことはかつてなかった。 ~『群衆心理』の序文に、著者ギュスターヴ・ル・ボンはこう綴っています。

 わずかに一世紀前までは、諸国家の伝統的政策や帝王間の抗争が、事件の主要な原因となっていた。群衆の意見などは、たいていの場合、問題にされなかった。だが、今日では、政治上の伝統や、君主の個人的な意向や、その抗争などは、ほとんど重きをなさないのである。群衆の声が優勢になったのである。

 この先、群衆の威勢が減ずることはない。まさに来たらんとする時代は「群衆の時代」であり、それは「群衆の神権が、王者の神権にとってかわる」ことになるのです。

 

(2) 異色の心理学者が目撃した「群衆」

 『群衆心理』は、ル・ボン54歳の時の著作です。群衆化した人間の心理に鋭く斬り込み、その功罪を説いた本書は各国で翻訳され、のちに群衆を率いて凄惨な虐殺を遂行するアドルフ・ヒトラーや、巧みなラジオ談話で群衆の心をつかんだフランクリン・ルーズヴェルトもこれを愛読していたといわれます。 ル・ボンの学問に対する姿勢は、学問領域の細分化に伴う研究者の専門化という時代の流れに、明らかに逆行するものでした。

 ル・ボンと親交があった外交官の本野一郎は、ル・ボンを「質実真摯なる学者」と評し、「才鋒鋭利にして識見凡俗を抜く」と大絶賛。その「忌憚なき言論は最も得意とする所にして、奇嬌常に人を驚かす」とも記しています(『民族心理及群衆心理』の序文より)

 

(3) 群衆は黴菌(バイキン)のように作用する

 群衆は、もっぱら破壊的な力をもって、あたかも衰弱した肉体や死骸の分解を早めるあの黴菌のように作用する。文明の屋台骨が虫ばまれるとき、群衆がそれを倒してしまう。

 では、「群衆」とは何か。ル・ボンがそう呼んでいるのは、特定の心理作用を起こした人々です。どんな心理作用かというと、一つは「意識的個性の消滅」。いま一つが「感情や観念の同一方向への転換」です。

 「群衆」は必ずしも大勢である必要もなければ、一か所に群れ集まっている必要もありません。集団を構成する人々の考え方や感じ方が統一され、濁流のように一つの方向に向かつていく。心理的にシンクロした集団という意味で「心理的群衆」と呼んでいます。

 

(4) あなたの身近に現れる群衆

 心理的群衆のなかにあると、個人が単体で動いていた時には働いていた理性や知性、それぞれの個性といったものは鳴りを潜めてしまう。これは、どんな人にも起こりうるし、日常のなかで一時的に群衆化することもある、とル・ボンは指摘しています。

 六人程度のグループでも心理的群衆になりうるし、日頃の生活基盤を傾かせるような国家規模の大事件が起こると、ネツトでつながっているだけのような「離ればなれになっている数千の個人」の心が強烈に揺さぶられて、心理的群衆の性質を具えることもある。

 人々が群衆になり変わった時点で、彼らに一種の「集団精神」が与えられ、考え方も感じ方も行動の仕方も、群衆になり変わる以前とは「全く異なってくる」(ル・ボン)。

 

 以下は、後に書きます。

(5) なぜ理性は易々と消え失せるのか

(6) 衝動的で興奮しやすい自動人形

(7) 単純さを好み、偏狭で横暴な群衆

(8) 群衆は本能的に隷属する

(9) 人間の合理性は、実はとても頼りない

 

<出典>

武田砂鉄(2021/9)、ル・ボン『群衆心理』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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