2021年8月24日火曜日

(2435) 和を乱さないために、本質を追求しない日本人/藤原正彦(1)

 【 藤原正彦 ・ 本質を追求しない 】問題が起きたときに事の本質を徹底的に問いただそうとしない。和を乱すことになるからだ。(1)自然科学が発達しなかった、(2)日清戦争での脚気、(3)暗号解読で敗れた海軍、(4)敗北が明らかな日米戦争に突入


 本質を追究しないのは日本人の特徴である。問題が起きたときに事の本質を徹底的に問いただそうとしない。和を乱すことになるからだ。物事も突き詰めて考えようとしない。

(1)     明治維新まで自然科学は発達しなかった

(2)     日清戦争のとき、陸軍で多くの将兵がビタミンBl不足による脚気で命を落とした

(3)    米国に暗号を解読され続け、多くの輸送船や戦艦が沈められた

(4)    戦う前から誰の目にも敗北が明らかな日米戦争に突入した

 

【展開】

(1)     明治維新まで自然科学は発達しなかった

 西暦500年から1500年までの1千年、日本一国の生み出した文学は質および量で全欧米を圧倒している。一方、明治維新まで、物の本質を追究する優れた哲学、自然科学(物理・科学)は、生み出されなかった。

(2)     日清戦争のとき、陸軍で多くの将兵がビタミンBl不足による脚気で命を落とした

 日清戦争のとき、陸軍では多くの将兵が戦闘ではなく、ビタミンBl不足による脚気で命を落としたが、原因追究を怠ったため、日露戦争でも再び多数の死者を出した。当時の陸軍は白米至上主義だったが、精米された自米にはビタミンBlがほとんど含まれない。

(3)    米国に暗号を解読され続け、多くの輸送船や戦艦が沈められた

 海軍も、昭和17年のミッドウェー海戦で戦力的に劣る米軍に暗号を解読され大敗を喫したのに、敗因を十分に吟味しなかった。そのため米軍の暗号解読は続き、連合艦隊司令長官の山本五十六は撃墜死し、多くの輸送船や戦艦が潜水艦の待ち伏せにより沈められた。

 陸海軍いずれも、原因の追究は、担当者である友人や上官の重大責任を追及することになるため、軍の和を乱すことを嫌ったのである。

(4)    戦う前から誰の目にも敗北が明らかな日米戦争に突入した

 日米戦争も同じだ。当時、日米の国力差をみれば、戦う前から誰の目にも敗北は明らかだった。にもかかわらず、精神論が支配する中で、異を唱えれば、臆病者と罵られ和を乱すことになると、みなが本質論から目を背けた。その結果としての悲劇だった。

 

<出典>

戦後76年、ワクチンを恵まれる屈辱 藤原正彦

産経新聞(2021/08/15)

https://www.sankei.com/article/20210813-OW2N4277VZJAHCRBOOPIXMQMY4/

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