2021年7月17日土曜日

(2398) ボーヴォワール『老い』(4-2) / 100分de名著

 【 読書 ・ 100de名著 】認知症になってまで生きていたくない、周囲はこれが本人の意思だと判断して、実際に安楽死を実行しようとしました。するとその場で本人が抵抗したため、家族が押さえつけて医師が致死薬を注射して死なせました


第4回  21日放送/ 23日再放送

  タイトル: 役に立たなきゃ生きてちゃいかんのか!

 

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50

再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55

 及び        午後 00:00~00:25

 

 

【テキストの項目】

(1)   老いの処遇としての社会保障

(2) 「非人間的」な高齢者施設

(3)   認知症に対する先進的な理解

(4)   症状ではなく経験を書く

(5)   家族のなかの高齢者

 

(6) 「独り暮らしはもっとも悲惨」

(7)   高齢者が集まって暮らすことは本当に幸せか

(8)   高齢者観の転換

(9)   社会保障の現在--施設から在宅へ

(10)     死の自己決定と実存主義

(11)     老いという冒険

 

【展開】

(1)   老いの処遇としての社会保障

(2) 「非人間的」な高齢者施設

(3)   認知症に対する先進的な理解

(4)   症状ではなく経験を書く

(5)   家族のなかの高齢者

 以上は、既に書きました。

 

(6) 「独り暮らしはもっとも悲惨」

 彼らは医療を受ける金がなく、病気は重くなって働くことを妨げ、いっそう貧困を強めるのだ。自分の悲惨を恥じて、彼らは家に閉じこもり、あらゆる社会的接触を避ける。彼らは自分が貧民救済金で生活をしていることを隣人に知られたくなく、その結果、隣人がかわりにしてくれるかもしれないささいな奉仕や最小限の世話にも事欠いて、ついには寝たきりの病人になってしまう。

 欧米における高齢者の個人主義や、自立に対する強迫というものも関わっていそうです。

 

(7)   高齢者が集まって暮らすことは本当に幸せか

 アメリカの高齢者コミュニティ「サン・シティ」などはおそらく富裕層の高齢者にとっての理想郷として扱われていましたが、彼女はカルヴィン・トリリンを引いて「多くの金を投資し、いわば背水の陣をしいて家を買ったのだから、そこに居残るほかはない。…が、もしやりなおせるとしたら彼らが同じ選択をするかどうかは確かではない」と指摘します。

 ボーヴォワールは、高齢者の住まいが集合住宅のなかにあって他の年齢層の人たちとまじりあって暮らせればいいと言っています。

 

(8)   高齢者観の転換

 サクセスフル・エイジング(成功加齢)という概念があります。このアメリカ生まれの概念は、「死の直前まで壮年期を引き延ばす思想のこと」。「老年期を否認する思想」、すなわち自分が老い衰えることを見たくない、聞きたくない、考えたくない思想のことだ。

 マクドナルドの「挑戦」は、「ポジティブな老いを生きよう」というフリーダンの提言より、ずっとラデイヵルです。年をとれば誰でも衰えて弱くなり、動きも鈍くなって、周囲に面倒をかけることもあるでしょう。それがどうした、その何が悪い?

 

(9)   社会保障の現在--施設から在宅へ

 介護保険の導入によって、日本で何が起きたか。かんたんに四つ指摘しておきます。

①権利意識の向上 介護保険料を払っているのだから、介護サービスは受けなきやソン、という意識が生まれ、サービス利用があっというまに広がった。

②介護サービス準市場の成立 介護サービスは成長産業。多くの事業者が参入。

③ケアワークの有償化 介護が女のタダ働きから有償労働に。ケアワーカーは資格を持つ専門職。

④家族介護の実態が明らかに それまで理想化されてきた家族介護に「他人の目」が入り、 一部にあつた高齢者虐待が明らかに。2005年に高齢者虐待防止法が成立。

 

(10)     死の自己決定と実存主義

 安楽死が認められているオランダで、安楽死の事前指示書を書いていた女性が認知症になりました。彼女の意思は、認知症になってまで生きていたくないというものだったので、周囲はこれが本人の意思だと判断して、実際に安楽死を実行しようとしました。するとその場で本人が抵抗したため、家族が押さえつけて医師が致死薬を注射して死なせた事件です。2016年に起きたこのケースは、医師らが殺人罪に問われるどうかで争われ、下級審・上級審ともに無罪となりました。

 

(11)     老いという冒険

 バーバラ・マクドナルドが、「高齢者だって70歳、80歳、90歳がどんなものか発見する過程にいる」(『私の目を見て』)と言ったように、老人たちは老いという新しい冒険に乗り出しているのです。それは、認知症になることを含めて、です。だから、生きていていいのです。役に立たないからと厄介者扱いするのではなく、役に立てないと絶望するのでもなく、わたしたちは老いを老いとして引き受ければいい。それを阻もうとする規範、抑圧、価値観が何であるかを、ボーヴォワールの『老い』はわたしたちに示してくれます。

 

 

<出典>

上野千鶴子(2021/7)、ボーヴォワール『老い』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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