2020年10月9日金曜日

(2116)  谷崎潤一郎スペシャル(2-1) / 100分de名著

 

 

◆ 最新投稿情報

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(K1257) 「世話する」から「力を引き出す」へ(かつてのケアに反発) <介護>

http://kagayakiken.blogspot.com/2020/10/k1257.html

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妄想や連想をより自由にできる。もっと幅広く「母的なるもの」を含んだ大きな発想で、母をとらえることか可能になります。谷崎はそうした前提に立って、母なるイメージの探求から無意識の様態を描き出そうと考えた

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 第2回  12日放送/ 14日再放送

  タイトル: 『吉野葛』- 母なるものを探す旅

  

【テキストの項目】

(1)   新たなテーマと私生活の転機

(2)   紀行文の体裁をとった歴史フィクション

(3)   抽象化された谷崎流の「母恋い」

(4)   あらゆる女性の可能性を秘めた「母」とは

(5)   永遠に立ち上がる「母なるもの」

 

(6)   吉野という異界

(7)  「聖地巡礼」の成果とは

(8)  「負け組」へのシンパシー

(9)   異界探訪譚

(10) 歴史、風土と一体化する新境地

 

【展開】

(1)  新たなテーマと私生活の転機

 今回取り上げる『吉野葛』は、昭和6(1931)45歳のときの作品です。谷崎はその前年、千代を作家仲間の佐藤春夫に「譲渡」し、正式に離婚します。ただちに雑誌記者であった古川丁未子と再婚。しかしその丁未子との暮らしは、松子への恋慕を抑えるストッパーとはなりませんでした。昭和九年には松子と同棲をはじめ、丁未子と離縁します。プライヴェートでは波乱にとんでいたこの頃に、谷崎は「母なるもの」を探すという文学的テーマを得るのです。『痴人の愛』 には濃厚に漂っていた、モダンボーイ、モダンガールの「エセ」西洋文化の影響から脱し、新たな文学的地平を切り拓く意気込みで、その舞台を関西に設定したのです。この点でも谷崎は戦略家でした。

 

(2)   紀行文の体裁をとった歴史フィクション

 どうやら「私」は、南北朝合体後に南朝再興を図った後南朝の自天王を主人公に仕立てた歴史ロマンの執筆を計画していたようです。素材探しとディテール探しのためには、まず現地の取材が必要であろうと、彼はこの地に乗り込んでいきます。そして吉野の里を自らの足で訪ね歩いてみたところ、それなりに魅力のある土地だと知った。大きな歴史ロマンの小説に取り掛かる前に、土地に根ざしたエピソードなどを繋いでいくことにした、と成立過程が書かれるのです。

 『吉野葛』も紀行文の体裁をとり、谷崎のガイドに従えば、現代風にいう「聖地巡礼」が可能になります。

 

(3)   抽象化された谷崎流の「母恋い」

 谷崎の「母恋い」には、個人的体験を捨象し、純度と抽象度を増した母と子のつながりが描かれます。もっと摩訶不思議で、幻想的なイメージ。別の言葉でいえば、心理学者のユングが唱えるところの「元型」、アーキタイプという概念がそれに近いと思われます。

 無意識のレベルにアーカイヴされた先祖からの情報を参照しながら、人は生きている。「母」ときくと、自分自身の母親がどういう来歴のどういう人物であっても、それとはべつの「母」的な元型、すなわち「大地母神」、「グレイトマザー」のイメージが立ち上がるのが、私たちの無意識のありようなのです。

 

(4)   あらゆる女性の可能性を秘めた「母」とは

 自分の母を恋うる気持は唯漠然たる「未知の女性」に対する憧憬、つまり少年期の恋愛の萌芽と関係がありはしないか。なぜなら自分の場合には、過去に母であった人も、将来妻となるべき人も、等しく「未知の女性」であって、それが眼に見えぬ因縁の糸で自分に繋つながっていることは、どちらも同じなのである。 … このように津村は語った。

 記憶に何のイメージも残っていない母だからこそ、そこに未知の女性への憧れを重ねることができる。つまり、母的な人との恋も、母的な人との結婚も可能であり、まだ見ぬ娘に母的なものを重ねることも可能だというのです。

 

(5)   永遠に立ち上がる「母なるもの」

 津村は、いわば夢で母と出会っている。見たこともない母に、夢の中でなら確信をもって相手を母と思い込むことができるのです。あの世で再会しましょうとは死んだ人に語りかける弔辞ですが、死なずにまた会いたいと思えば、現世でいちばんあの世に近い、夢の中で待ち合わせるしかありませんから。

 谷崎は、津村という青年の述懐を通じて、永遠の「母なるもの」を立ちあげていきます。そしてそれは、古典芸能に描かれる母的な存在の理解ともつながるのです。日本という風土と歴史に脈々と受け継がれてきている、母的なるもの。

 

以下は、後に書きます。

(6)   吉野という異界

(7)  「聖地巡礼」の成果とは

(8)  「負け組」へのシンパシー

(9)   異界探訪譚

(10) 歴史、風土と一体化する新境地

 

<出典>

島田雅彦(2020/10)、谷崎潤一郎スペシャル、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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