2020年8月21日金曜日

(2067)  ミヒャエル・テンデ『モモ』(4-2) / 100分de名著



◆ 最新投稿情報
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「慌ただしい大人にこそファンタジーを読んでほしいと願っています。自分が生きている・現実とは全く違うリアリティに触れることができますし、子どもとは異なる読後感を感じるでしょう」その意味は、大きい。
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第4回  24日放送/ 26日再放送
  タイトル: 「受動」から「能動」へ

放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55
 及び        午後 00:00~00:25

【テキストの項目】
(1)   眠りを経て訪れる転機
(2)   立ち上がる主体
(3)  「みずから」と「おのずから」の結節点
(4)   ホラを再訪する

(5)   ラジカルなイニシエーション
(6)   灰色の男たちの最期
(7)   毒は自滅する
(8)   あとがきの意味を考える
(9)   大人がファンタジーを読むことの意味

【展開】
(1)   眠りを経て訪れる転機
(2)   立ち上がる主体
(3)  「みずから」と「おのずから」の結節点
(4)   ホラを再訪する
 以上は、既に書きました。

(5)   ラジカルなイニシエーション
 灰色の男たちに包囲されたこの状況をどう打開し、いかにして人々を最悪の事態から救うか。 ホラは最後の手段を思いつきますが、それを実行するには「わたしひとりではむりだ」といいます。
 その方法とは次のようなものでした。まずホラが眠りにつき、時間を完全に止める。すると灰色の男たちは誰からも時間が盗めなくなるため、時間の貯蔵庫に向かうはずだ。そこでモモがあとをつけ、彼らの邪魔をして時間を取り出せないようにする。時間の補給が切れた灰色の男たちが消滅したら、貯蔵庫にある時間を解放して、盗まれた時間を人間の元に戻せばいい。すると時間は再び動き出し、ホラも眠りから目覚めるだろう――。

 時間の源にいるホラが眠り、少女であるモモが主体的に努力するという作戦は、通常考えられる役割分担からはまったく逆でしょう。時間を止めて灰色の男たちを消滅させるのは、本来はホラがすべき仕事のはずです。
 この転倒は、ラジカルなイニシエーションとして解釈できます。イニシエ―ションとは人類学用語で、若者が成人として社会に承認される手続きや儀式のことです。

(6)   灰色の男たちの最期
 ホラとモモの計画が実行されました。モモは、凍った時間の花がしまってある金庫扉を閉めることに成功し、灰色の男たちは皆、消えてゆきました。
 モモは再び時間の花で金庫扉に触れました。すると扉が開き、閉じ込められていた時間の花たちは自由になって、元の持ち主のところに帰っていきます。世界は再び、動き出しました。

(7)   毒は自滅する
 毒というものは、大部分が自分からなくなっていきます。毒は寄生するものを必要とするのです。まさにウイルスと同じです。寄生できる身体、あるいは心の働きがあるからこそ、それらは生まれ、生き延びるのです。
 灰色の男たちという存在も、結局は人間自身が生み出した毒でした。今という時間に満足できない、少しでも早く仕事を進めなければならない、時間は節約しなければならない――    そう思っているからこそ灰色の男たちは生まれてくるのであって、その考えをやめると、彼らは自然といなくなるのです。

(8)   あとがきの意味を考える
 「作者のみじかいあとがき」が最後に付されています。ここでエンデは、この物語は自分が旅の途中に汽車で偶然出会った「きみょうな乗客」から聞いたものだと述べています。その人は最後にこんな言葉を残したと記しています。
 「わたしはいまの話を、」(中略)「過去に起こったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとしてお話ししてもよかったんですよ。わたしにとっては、どちらでもそう大したちがいはありません。

(9)   大人がファンタジーを読むことの意味
 私は、慌ただしい大人にこそファンタジーを読んでほしいと願っています。自分が生きている・現実とは全く違うリアリティに触れることができますし、子どもとは異なる読後感を感じるでしょう。その印象を吟味することによって、世界へのより深い洞察や、新しい生き方を感じ取ることができるはずです。大人がファンタジーを読む意味は大きいと思います。
 現代は灰色の男たちの論理に非常に近いところで動いている時代だと思います。それを避けることは難しいですが、われわれのこころの根底にあるいのちと時間の根源に触れて、もう一度われわれや世界が生まれ直すことは大事です。『モモ』 という物語は、その一つのモデルを示してくれています。


<出典>
河合俊雄(2020/8)、ミヒャエル・テンデ『モモ』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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