2020年3月14日土曜日

(1908)  アーサー・C・クラーク スペシャル(3-2) / 100分de名著

 
◆ 最新投稿情報
=====
(K1049)  レビー小体型認知症(松島トモ子の母) <認知症>
http://kagayakiken.blogspot.com/2020/03/k1049.html
=====
 

☆☆
冒険を「行きて帰りし物語」の英雄譚にするためには、守らなければならないルールがある――ダイビングを通して学んだのではないか。そのような冒険を描いた数ある物語のなかでも、この『都市と星』は屈指の傑作だ
☆☆
 
第3回  16日放送/ 18日再放送
  タイトル: 科学はユートピアをつくれるか--『都市と星』
 
放映は、   月曜日 午後 10:25~10:50
再放送は、  水曜日 午前 05:30~05:55
 及び        午後 00:00~00:25

【テキストの項目】


(1)   人の生死をも管理する都市
(2)   サイバネティックス小説の先駆け
(3)  「特異の人」が世界を動かす
(4)   もうひとつの共同体で見つけたもの
(5)   自己成長の物語
 
(6)   神話色の強い冒険
(7)  「伝説」の背景に隠された真実
(8)   ダーウィンはいかに世界を変えたか
(9)   夜のとばりに抗って
(10) 海の冒険からクラークが学んだもの
 
【展開】
(1)  人の生死をも管理する都市
(2)   サイバネティックス小説の先駆け
(3)  「特異の人」が世界を動かす
(4)   もうひとつの共同体で見つけたもの
(5)   自己成長の物語
 以上は、既に書きました(1906)
 
(6)   神話色の強い冒険
 比較神話学者ジョホゼフ・キャンベルは世界各地の神話物語を検討して、神話には「英雄の旅」と呼べる共通の構造的特徴があることを見出しました。英雄は、天命を受けて旅立ち、師(メンター)となる人物や旅の仲間と出会いつつ、やがて克服すべき課題を達成し、そして故郷に戻ってくる――というものです。
 神話的英雄譚の血脈は、『都市と星』にも引き継がれていると考えられます。
 ダイアスパーを設計したヤーラン・ゼイという伝説的な人物が、十億年後に自分にそっくりな人間が生まれるように仕組んでいて、 … アルヴィンはヤーラン・ゼイの生まれ変わりではないかとも暗示されている。
 
(7)  「伝説」の背景に隠された真実
 〈帝国〉はもう一度実験を開始し、そうして荒廃した銀河系で新たに生まれた純粋精神体ヴァナモンドが最後の希望となっていた。それが十億年以上も前の出来事だ――こんな気の遠くなるような悠久の歴史が、次第に明かされていくのです。
 アルヴィンは、師に向かってこういいます。「宇宙にはもう、興味はありません。 … しなければならないことは地球にこそあります。 … もう二度と、故郷を離れるつもりはありませんよ」
 
(8)   ダーウィンはいかに世界を変えたか
 《ビーグル号》の航海からイギリスに戻ったダーウィンは、その後はいっさい外に出ることなく、 … 著述活動に専念しました。そのようにして書き上げた『種の起源』は、結果的に世界を変えました。冒険自体が世界を変えたのではなく、冒険のあとの思索が世界を変えたのです。
 地球に残ることにしたアルヴィンの選択は、ダーウィンの生涯を想起させます。彼は人類全体のことを「いたわる心」を持っています。
 
(9)   夜のとばりに抗って
 この物語の感動的なラストシーンです。
 銀河系には夜が忍びよりつつある[the night was falling]。東に向かって長々と影が伸びはじめたいま、ここに夜明けが訪れることは二度とない。しかし、宇宙の数多(アマタ)ある銀河では、なおも星々が若々しく輝き、惑星に力強い朝陽を投げかけている。いつの日か、かつてと同じ道をたどって、人類はふたたび銀河系の外へ出ていくにちがいない。
 
(10) 海の冒険からクラークが学んだもの
 三つの観点からこの小説を振り返ってみます。
   ユートピア: 『都市と星』の舞台となるダイアスパーは、科学的発展を極めたユートピアであるかのように思えますが、一方で非人間的な社会として描かれています。 … 真のユートピアとは何かという永遠の問いに対する本作のメッセージ性は、いまも色褪せずにぼくたちの心を動かすものとなっています
   多様性: アルヴィンはヒルヴァーと一緒になって行動します。それまでまったく交流を絶っていたダイアスパーとリスの人間が、バディとなって冒険をしてゆく。一緒に溶けていくのではなく、価値観の違う者どうしが相手の個を尊重しながら交流する。
   冒険: 目的が達成されない冒険は、すなわち意味がない。「冒険は一人でおこなうものではない」「やみくもに行けばよいというものではない」
 これらに、クラークの個人的な体験が反映していると思われる。ダイバーとしての海での冒険、セイロンでの暮らし、携わった着陸誘導管制(GCA)の開発など
 
<出典>

瀬名秀明(2020/3)、アーサー・C・クラーク スペシャル、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)

0 件のコメント:

コメントを投稿