2016年8月31日水曜日

(617) 「取り繕い」と「作話」が、認知症者と介護者を幸せにする


以下に書いてあることは、複数の認知症者に接して私が得た知見である。
本で得た知見がベースにあるが、それについて書いたものではない。

さまざまな認知症者がいて、ひとりひとり環境が違うことは、
留意しておかねばならない。
あるケースで当てはまっても、別のケースで当てはまるとは限らない。

 

認知症に「取り繕い」と「作話」がよく現れる。

先ず、基本となる用語の確認をする(ご存知の方は、読み飛ばしてください)

 
===== 「取り繕い」 はじめ

認知症の人と話していると、まるでその場で話を取り繕っているような感じがすることがあります。これを「取り繕い反応」といいます。少し専門的な言葉で説明すると、記憶が抜けてしまったところや、外からの情報を適切に処理・統合できないことに対して、とっさに機転を利かせた対応をすることをいいます。例えば、自分にとって良くない状況になった時、それを周囲に気づかれないような言動をとる、といったことがあります。これは、「周囲から取り残されたくない、周囲の人と何とかその場をうまく過ごしたい」といった気持ちからおこるものではないか、と言われています。ただ、この取り繕い反応は無意識にとってしまう言動なので、「うまくごまかそう」と考えてしているわけではありません。

===== 「取り繕い」 おわり

 
===== 「作話」 はじめ

認知症の人がありもしない嘘の話をすることを、「作話」といいます。

本人に、嘘をついているつもりはありません。認知機能が衰えているため、必要なことを忘れたり、その反対に不要な情報が残っていたりすることがあるので、作り話をすることで、本人なりに矛盾を正して納得しようとしているとも考えられるようです。

===== 「作話」 おわり

 

「取り繕い」も「作話」も、背景情報を知らないと、騙されてしまう。それでいいのだ。ただ「騙す」という言葉はよくない。認知症者には「騙そう」という意図はない。大切なのは、「本当ではない認知症者の発言を、事実とは違っても、直接的な問題がない限りは、そのまま容認する」ということである。

 
 
次のことが言える

(1)   「取り繕い」は、認知症者が自分の物忘れに関し抱く、困惑感、不安感、嫌悪感、恐怖感を和らげてくれる(特に、早期の段階 ~ 軽度認知障害(MCI)段階(*1)

 
(2)   「取り繕い」「作話」は、衰えた記憶能力にもかかわらず、論理能力を働かせ、脳全体を活性化する

 
(3)   「作話」により、欠損された記憶が、好ましい出来事に置き換わっていくことがある

 
(4)   「作話」により、人生の好ましくない部分が薄れ、本人の中で人生全体が好ましいものに変質していくことがある

 
(5)   (3)(4)により、心は正のオーラを強める。それにより(3)(4)は促進される

 
(6)   一方、負のオーラを発している心の状態(憎しみ、恨み、悲しみ、不安、恐怖など)では、欠損された記憶は好ましくない出来事に置き換わり、人生の好ましい部分が薄れ本人の心の中で人生全体が好ましくないものに変質していく。そのことにより、負のオーラは強くなる

 
(7)   「取り繕い」「作話」の扱い次第によって、正の循環に入っていくケースがある一方、負の循環に入っていくケースもある

 
(8)   大切なのは「本当ではない認知症者の発言を、事実とは違っても、直接的な問題がない限りは、そのまま容認する」ということである。「取り繕い」「作話」を安易に否定すると、認知症者は動けなくなり、困ってしまい、ふさぎ込む。あるいは反発する

 
(9)   「本当ではない認知症者の発言を、事実とは違っても、直接的な問題がない限りは、そのまま容認する」ことにより正の循環が始まる。あるいは負の循環が弱まり、やがて正の循環に逆転し始める

 
(10)           認知症の症状には、「中核症状」と「周辺症状(BPSD:行動・心理症状)」(*2)とがある。おおまかに言うと、「中核症状」は介護者を少し困らせ、「周辺症状」は介護者を大いに困らせる

 
(11)           認知症者に正のオーラが強い時「周辺症状」は抑制され、負のオーラが強い時「周辺症状」が多発する

 
(12)           抑制された「周辺症状」の元では介護者は心穏やかに認知症者に接することができ、正のオーラ強化に協力することができる。多発する「周辺症状」の元では介護者は疲労困憊し、負のオーラ強化に加担してしまう

 
(13)           正の大循環と、負の大循環がある。正の大循環の元では、認知症者も介護者も幸せになれる。「認知症=不幸」ではない

 
(14)           元をたどれば、「本当ではない認知症者の発言を、事実とは違っても、直接的な問題がない限りは、そのまま容認する」ことができるかできないかが、一つの分岐点となる

 

最後に、基本となる用語の確認をする

 
(*1) 軽度認知障害(MCI

===== 軽度認知障害(MCI)説明 はじめ

健常者と認知症の中間にあたる、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という段階(グレーゾーン)があります。MCIとは、認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じてはいますが、日常生活には支障がない状態のことです。以下がMCIの定義になります。

 
MCI5つの定義

1.記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
2.日常生活動作は正常
3.全般的認知機能は正常
4.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
5.認知症ではない

===== 説明 おわり

 
(*2) 「中核症状」と「周辺症状(BPSD:行動・心理症状)」

===== 「中核症状」「周辺症状」説明 はじめ

認知症の直接の原因である「脳の細胞が壊れる」ことで起こる症状を「中核症状」といい、認知症の方であれば誰しもが抱える症状のことを言います。

 
一方、周辺症状とは「行動・心理症状」とも言われます。最近ではBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という略語も登場しています。認知症は本人が元々持ち合わせている性格や置かれている環境が大きく作用し、症状もある程度分類は出来ますが複数の症状が重複する方もおられる為多様化します。人によって症状が異なるので、全く同じ症状の方は居ないと言っても過言ではないのです

===== 説明 おわり
https://info.ninchisho.net/symptom/s10

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