2016年8月12日金曜日

(597) 華夷システムと藩屛


 新聞やテレビのニュースを見ていると「アジア」は日本を随分否定的に見ているようだが、ここでいう「アジア」は中国、北朝鮮、韓国の三カ国であり、その他の「アジア」の国々は日本に好意的に見える。何故、この三カ国が特異な動きをするのか不思議だったが、「華夷システム」「藩屛」という言葉を使えば、なんとなく納得できる。
 

「華夷システム」とは古代から近世に至るまで中華帝国を中心とした平和維持システムのことである。中華帝国は朝貢を求め、朝貢の数倍の見返りを与える。朝貢する側の国を「藩屛」という。もう少し詳しく説明する。

 
===== 華夷システム 説明はじめ

 華夷システムとは古代から近世に至るまで中華帝国を中心とした平和維持システムのことである。漢、唐、宋、元、明、清といった中華帝国は周辺の朝鮮、ベトナム、満州、チベット、モンゴル、琉球といった王朝の軍事権、外交権を制限して紛争を防ぐ代わりに、朝貢を求め、朝貢の数倍の見返りを与えて各王朝の経済的安定を図ってきた。また、

それらの王朝が侵略を受けた際は、中華帝国が軍事力を発動して侵略に対処した。

===­== 説明おわり

 
===== 藩屛 説明はじめ

 朝貢する側の国、これを藩屛というが、藩屛は朝貢することでその数倍の経済的利益を得て、国内経済を安定させることができるし、軍事権を制限されているおかげで、軍事費が不要になり、対外交渉も中華帝国に委任することで、頭を悩ます必要がなくなるのである。軍事、外交、経済はお任せ、要はおんぶに抱っこなのだ。

===== 説明おわり

 
 ここまでは、高校の世界史で学んだ。

 大切なのは、これがどういう意味を持つかである。

 
===== 引用はじめ

 このシステムは2000年近くにわたって東アジアで行われ、その結果、システムに組み込まれた藩屛は自助努力を怠るようになっていく。軍事、外交、経済を中華帝国に依存するのが当たり前になり、王朝は国内での搾取に狂奔するようになる。これが中華帝国の目的であったことは論をまたない。

===== 引用おわり

 
 現在の中国を中華民国に、現在の北朝鮮と韓国を藩屛に重ね合わせると、昔の再現ではないが、色々な発想が出てくる。


 
 中国は、「偉大な中国の復興」「陸上と海上における新シルクロード」で中華帝国になろうとしている。「アジアインフラ投資銀行」は、その手段である。カンボジアやラオスは藩屛の役割を果たしている。

 
 韓国は、一時中国に接近していたが、最近では見放されて困っている。根っこのところは未だ藩屛であり、安心して中国によりかかっていけるが、日本に対しては、そうではないのだろう。
 

 北朝鮮は、軍事的制約を拒否しているので、藩屛ではないように見える。しかし、国連で袋叩きになりそうでも、中国に守られている。北朝鮮がもがけばもがくほど、藩屛として組み込まれていく。

 
 
 日本は、平安時代中期まで中華帝国(唐)に朝貢を行っていたが、その後離脱した。「華夷システム」に組み込まれなかったし、「藩屛」にもならなかった。

 
 ただ、「国内経済を安定させることができるし、軍事権を制限されているおかげで、軍事費が不要になり、対外交渉も中華帝国に委任することで、頭を悩ます必要がなくなるのである」を読むと、戦後の日本はアメリカの藩屛に近かったように思われる。

 
 
 韓国も日本も「システムに組み込まれた藩屛は自助努力を怠るようになっていく」という課題に対処しなければならないという点は、似ているとも言えそうである。

 

 「華夷システム」「藩屛」は、興味深いキーワードである。

 
引用:
大野敏明、「韓国を理解するカギ」、視線、産経新聞(2016/08/08)

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