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2020年6月4日木曜日

(1990)  カント『純粋理性批判』(2-1) / 100分de名著


◆ 最新投稿情報
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(K1131) 「始まりはささいな異変から」まとめ / 認知症の人の不可解な行動(10) <認知症>
http://kagayakiken.blogspot.com/2020/06/k113110.html
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第2回のポイントは、「近代哲学の二大難問に答えるべくカントが展開した認識論~その認識論を前提として、カントが自然科学をどのよう基礎づけたのか~」。「悟性の用いる概念」と「ア・プリオリな総合判断」
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第2回  8日放送/ 10日再放送
  タイトル: 科学の知は、なぜ共有できるのか


【テキストの項目】
(1)   悟性がもつ働き
(2)   経験概念と純粋概念
(3)   悟性がア・ブリオリに備える「カテゴリー」
(4)   無意識に行っている判断の原則
(5)  「ア・プリオリな総合判断」とは何か
(6)   純粋な悟性の原則

(7)   数の概念はどうやって生まれるか
(8)   すべての直観は外延量である
(9)   自然科学を基礎づける原則
(10) すべては「私の体験」として
(11)「超越論的哲学」の最終目的


【展開】

(1)  悟性がもつ働き
 まずは、カント認識論のキーワード「悟性」について、詳しく述べておく必要があります。カントは、人間は「感性」と「悟性」の二層構造で世界を認識していると考えました。感性とは、物自体から与えられるさまざまな感覚を空間・時間の枠組みによって位置づけて「直観」をつくる働きのことです。ここで直観された漠たるイメージを、「ああ、これは茶色の大きなテーブルだ」と判断するのが悟性です。
 カントがいいたいのは、感性で受け取ったさまざまな直観を整理して秩序づけるのが悟性の働きだということです。どのように秩序づけるのでしようか。カントは、さまざまな「概念」を使うことによってそうしているのだと述べます。

(2)   経験概念と純粋概念
 ところで、カントによれば、悟性の用いる概念には二つの種類があります。
 第一の種類は、経験を通して後天的に獲得される概念で、「経験概念」と呼ばれます。経験によって獲得される概念は、文化や個人の経験によっ て異なってきますから、万人に共通なものではありません。このように、経験によって獲得される、ということを、カントはア・ポステリオリ(後天的)と呼びます。ですから、経験概念は「ア・ポステリオリな概念」とも呼ばれます。
 さて、これとは異なった種類の概念として、カントはすべての人間にあらかじめ(ア・プリオリに)備わっている概念がある、といいます。そしてこれを、経験をまじえないという意味で「純粋概念」とも呼んでいます。

(3)   悟性がア・ブリオリに備える「カテゴリー」
 カントは、私たちは純粋概念として四種十二個の「カデゴリー」を備えていると述べています。このカテコリーとは、思考の基本的な形式()のことです。カントは、①量・②質・③関係・④様相の四種十二個を挙げていますが、これらはすべて思考の働きの型を表すものです。

   「量」のカテゴリー
 このなかに「単一性(ひとつ)」「数多性(いくつか)」「全体性(すべて)」という、数量を捉える三個の概念が挙げられています。
「ひとつ」というのは、「これをひとまとまりとみなしますよ」ということですから、思考の働きであるといえます。単位となる「ひとつ」が成り立つと、
それを集めた「いくつか」が成り立ち、
さらには「すべて」を捉えることができます。

(4)   無意識に行っている判断の原則

② 「質」のカテゴリー
私たちはなにかに接して、「これは…だ」と肯定的に対象を捉える場面もあれば(「実在性」のカテゴリー)、
「これは…ではない」と否定的に捉えることもあります(「否定性」のカテゴリー)
「これは茶碗ではない」「平皿でもない」「コップとも違う」と単なる否定ではなく、否定を通じて範囲を定めていくわけですから、否定性と実在性とをあわせもっており、カントは、これを「制限生」のカテゴリーと呼んでいます

③ 「関係」のカテゴリー
 科学の思考とつながる点で重要です。これは、二つの事柄の間になんらかの必然的なつながりを見出す思考の型です。二つの事柄がたまたまつながっているのではない、ということです。
「実体と属性」のカテゴリー。ある種の対象に必然的に属する性質を考える思考の型
「原因と結果」のカテゴリー。カントは、「ある原因が必ず一定の結果をもたらす」という思考は単なる習慣ではなく、人間の悟性にア・プリオリに備わったものであるといいます。これは因果律の問題につがかります
「相互性」のカテゴリー。二つの事柄が互いに作用しあうということを見て取る思考の型

④ 「様相」のカテゴリー
 なんらかの命題があるとき、それについて
「あり得る/あり得ない」
「実際に成り立っている/成り立っていない」
「必然的に成り立っ/偶然にすぎない」
と判断するような思考の枠組みのことです。つまり、ある命題についてその確からしさの程度を判定すること、と理解してもいいでしよう

(5)  「ア・プリオリな総合判断」とは何か
 さて、ここまでの話をいったん整理しておきます。
私たちは「感性」と「悟性」の二層で世界を認識している
直観をつくる感性は、空間と時間という二つの枠組みをア・プリオリに備えている
直観されたものを判断する悟性は、四種十二個のカテゴリー(純粋概念)をア・プリオリに備えている

 私たちは、日常生活のなかで「〇〇は…だ」という判断を頻繁にしています。これらの判断は、「分析判断」と「総合判断」に大別することができます。
 イギリス経験論の立場では、すべての総合判断は経験にもとづいて形成されると主張します。ヒュームがその典型です。しかしカントは、経験にもとづくものではない総合判断もあると考えました。つまり、主語に新たな情報を付加しているのに(分析判断ではないのに)、その情報は経験や調査にもとづくものではない、そういう種類の判断がある。カントは、これを「ア・プリオリな総合判断」と呼んだのです。

(6)   純粋な悟性の原則
 因果律の他にも数学や科学の土台となる「ア・プリオリな総合判断」があるとカントは考え、  これを「純粋な悟性の原則」と呼びました。この「原則」はカテゴリーと同じく四種類ですが、合計八個あります。
 これらの原則がどうやって成り立つかを示すことが、数学と科学の基礎づけとなるのですが、では、具体的にどうやってこれを示すのでしようか?――感性に備わるア・プリオリな形式である空間・時間(直観)と、悟性が備えるア・プリオリな概念(カテゴリー)とを結び合わせることによって、カントはこれらの原則を導出していきます。つまり、共通規格として設定された二つの層を結びつけることで、どんな人にも共通な「認識のさいに働く原則」を導き出すというわけです。


以下については、後日書きます。
(7)   数の概念はどうやって生まれるか
(8)   すべての直観は外延量である
(9)   自然科学を基礎づける原則
(10) すべては「私の体験」として
(11)「超越論的哲学」の最終目的


<出典>
西研(2020/6)、カント『純粋理性批判』、100de名著、NHKテキスト(NHK出版)



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